大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和34年(ワ)94号 判決 1962年8月13日

原告 町本秀

被告 宮崎隆治 外一名

主文

被告宮崎隆治は原告に対し別紙第一目録<省略>記載の土地を明渡し、かつ金五五〇円および昭和三三年四月一日から右明渡済まで一ケ月金二四〇円の割合による金員を支払え。

被告宮崎陞は原告に対し別紙第二目録<省略>記載の建物を収去して同第一目録記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は鹿児島県から昭和二二年一月建物を建築して市場を開設する目的で、同県所有の鹿児島市洲崎町二二番地先埋立地二二七、三七坪(以下本件土地と称する)を借受け、以後三回更新されて最後に昭和二九年九月一五日付で同年一〇月一日より同三四年九月三〇日まで期間更新がなされたところ、同県はその後も同三五年八月分までの賃料を受領した(同年九月分以降現在にいたるまで原告は賃料を弁済のため供託している)ので、原告は従前と同様の条件をもつて同県より本件土地を更に賃借しているものである。

二、原告は同県の承諾を得て、昭和二九年一〇月一日被告宮崎隆治に対し本件土地のうち別紙第一目録記載の部分八、一〇坪を賃料一ケ月金五五〇円(昭和三三年四月より同県の指示により一ケ月金二四〇円に減額)、毎月二五日払、期間昭和三四年九月三〇日までとして賃貸した。

三、被告宮崎隆治は右土地上の別紙第二目録記載の建物(以下本件建物と称する)に居住して右土地を占有使用している。

四、しかるに被告宮崎隆治は昭和三三年三月一日からの賃料を支払わないので、原告は昭和三四年二月二〇日同被告に対し内容証明郵便で右延滞賃料を同月二五日までに支払うよう催告をなし、右郵便は同日同被告に配達されたが、同被告はその支払もなさなかつたので、原告は同月二八日内容証明郵便で賃貸借契約解除の意思表示をなし、該郵便は翌三月一日同被告に配達された。

五、被告宮崎陞は別紙第一目録記載の土地上に本件建物を所有し昭和三一年二月二七日その所有権保存登記をなし、右土地を占有している。

六、そこで被告宮崎隆治に対しては、右賃貸借契約が昭和三四年三月一日解除されたことにもとづいて、別紙第一目録記載の土地を明渡し、かつ昭和三三年三月分の賃料金五五〇円および同年四月一日から昭和三四年三月一日まで一ケ月金二四〇円の割合による延滞賃料、同月二日から明渡済まで同じ割合による賃料相当の損害金を支払うことを求め、被告宮崎陞に対しては、原告の本件土地の賃借権にもとづき賃貸人であり本件土地の所有者である同県の同被告に対する本件土地所有権にもとづく妨害排除請求権を代位行使して本件建物を収去して別紙第一目録記載の土地を明渡すことを求める。

と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、答弁として、「原告主張の請求原因一、二項の事実を否認する。本件土地は、同所に居住していた原告外数名の者が市場開設の目的で昭和二一年秋頃住吉市場組合を組織し、原告をその代表者として鹿児島県より借受け、これを組合員に配分し、組合員においてそれぞれ建物を建築し市場を開設したものであるところ、被告宮崎隆治は当初からの組合員であつた訴外野口昌儀から被告宮崎陞のため本件建物を同県および組合代表者である原告の承認を得て譲受け、被告宮崎隆治において本件建物に居住し、右野口昌儀の組合員たる権利義務を承継しているものである。そうして賃料は組合代表者たる原告を経て同県に納入してきたのである。したがつて別紙第一目録記載の土地は原告から借りているものではない。請求原因四項および五項の事実はこれを認める。」

と述べた。<立証省略>

理由

原告主張の請求原因一項ないし三項の事実について判断する。

成立に争いのない甲第一号証、第二号証、第五号証、第六号証、第八号証、第一二号証、第一四号証の一ないし五、第一八ないし第二七号各証、乙第二号証の一ないし六、第三号証の一、二、第四ないし第七号各証、第一〇号証、第一一号証の一、二、三、第一五号証の一、二、第一六号証、市長作成部分について争いがないから真正に成立したものと推定する甲第七号証、証人田畑当熊の証言により真正に成立したと認める甲第一〇号証、第一一号証と証人久保武彦、塚脇重盛(後記措信しない部分は除く)、田畑当熊、坂元長太郎(後記措信しない部分は除く)の各証言、原告本人尋問(二回、後記措信しない部分は除く)、被告宮崎隆治本人尋問(後記措信しない部分は除く)の各結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば次の事実を認めることができる。

終戦直後、管理および取締の十分でないのに乗じ、鹿児島市洲崎町の中央市場附近から同市住吉町の第二桟橋附近までの道路端および道路ぞいの本件土地を含む県有地(鹿児島港内の港湾用地であつて当時鹿児島県土木部河港課が主管し、昭和二二年九月以降は同部港湾課が主管しているが、実際はその出先機関である鹿児島県港務所が管理し、同港務所は後に鹿児島港管理事務所と改称された。)には引揚者、戦災者等が管理者に無断で多数露店を出し、昭和二一年夏頃その数は一〇〇名を越えるようになつた。その頃原告は本件土地が県有地であることを知り、これを正式に借り受けて市場を開設しようと考え、所管の鹿児島県港務所の係員と交渉し、本件土地を使用することの了解を得て右土地上に数坪のバラツク建屋台付の住宅を建築し、訴外谷山慶助等数名も原告の承諾を得て、その一部に同様のバラツクを建て店を出し、同様こゝに店舗を構える者が段々とでき昭和二二年初頃には約一〇名位になつた。被告宮崎隆治はその頃から本件土地の近くに露店を出すようになつた。そうしてその頃本件土地に店舗を構える者と被告宮崎隆治のように中央市場から第二桟橋附近までの道路端等に露店を出す者とが、税務署、警察署、市役所等の関係官庁との交渉の便宜のため住吉市場組合を組織し、前記谷山慶助が初代組合長に選ばれた。原告は本件土地に市場を開設するについて、右のように係員の了解は得ていたものの、未だ書面による占有許可ではなかつたので、正式に許可を得ようとしていたところ、当時の右港務所係員から多数の個人に個々に使用させるのは煩雑で困るが組合等の団体になら使用を許してもよいとの意向を伝え聞き、個人では到底許可を受け得ないだろうと考え、たまたま成立した右組合の名義を冒用して勝手に本件土地を市場営業の目的で使用するため占有許可願をなし、昭和二二年一月三〇日県知事名義で右港務所より右組合に対し容易に除去できる屋台店程度のバラツク建築をして本件土地を使用することを許可するという趣旨で、期間を同月一〇日から同年三月三一日までとして許可された。原告はさらに同様にして期間更新の申請をなし、同年六月二三日附および昭和二三年一〇月六日附で同組合に対し各一年の期間更新が許可され、昭和二四年三月三一日まで本件土地の使用が許可された。その間昭和二三年初頃訴外野口昌儀は原告の承諾を得て本件土地のうち別紙第一目録記載の土地に約八坪のバラツク建築をなし、これに居住して店を出すようになつた。

一方原告はその頃から約一年間右組合の二代目組合長に就任した。昭和二四年初頃住吉町道路端に露店を出す丸野某が第三代目の組合長に就任したので、原告は本件土地を組合名義で借りておくと種々支障を生ずることを恐れ、かねての企図どおり原告個人として使用許可申請をなしたところ、右のように本件土地の使用に関する交渉はすべて原告がしていたし、係員とも懇意になつていたので、係員も申請人の変更について慎重に検討もしないで、昭和二四年六月七日付で同年四月一日から昭和二五年三月三一日までの期間慢然これを許可してしまい、以後既成事実として昭和二五年七月二一日付で同年四月一日から昭和二六年三月三一日まで、同二八年三月三一日付で同二七年四月一日から同二九年九月三〇日まで各期間の更新がなされて、最後に同二九年九月一五日付で(1) 期間同二九年一〇月一日から同三四年九月三〇日まで五ケ年、(2) 賃貸借料一ケ年三万二、八三二円、(3) 使用目的原告において本件土地上に平家建木造瓦葺九棟、二階建木造瓦葺一棟、同平木葺八棟の工作物を施設し、市場開設の用に供する、との約定で鹿児島県港務所長と原告との間で県有土地賃貸借に関する契約(甲第一二号証)が締結せられた。そうして右期間満了の昭和三四年九月頃原告は鹿児島港管理事務所長に対し契約更新の申入をなしたが、同事務所長は未だこれに応答していない。しかし同事務所は右期間満了後の昭和三四年一〇月分より同三五年八月分までの港湾用地貸下料を徴収したが、同年九月分以降はこれを徴収せず、原告の賃料支払の提供にもかゝわらず、これが受領を拒否している。そこで原告は同月分より同三七年五月分までの賃料として月金四、五六〇円の割合の金員を供託しているのである。一方前記組合は昭和二五年道路上での露店が禁じられたため、組合員が次第に少なくなつて自然に解消され、原告や被告宮崎隆治等本件土地に居住する者は昭和二六年洲崎市場組合を組織し原告を組合長に選んだが、これも昭和二八年頃から活動しなくなつた。ところで一方被告宮崎隆治はその兄被告宮崎陞のため昭和二五年一二月頃前記野口昌儀が建築したバラツクを買受け、昭和二六年九月頃被告宮崎陞のため(被告宮崎隆治は被告宮崎陞から金借していたのでかようにした。)右バラツクを大改築して本件建物になし、同年秋頃自ら原告の承諾を得て、この建物に移り住み、飲食店を営むようになり、爾後別紙第一目録記載の土地の賃料は昭和三三年二月分まで自らこれを原告に支払つてきた。原告は以上のように県からの借主が組合から原告に変り、かつ賃貸期間も長くなつたので、昭和二九年九月一五日頃から本件土地に居住する者十数名等と順次、前記県との賃貸借期間五ケ年の範囲で土地賃貸借契約を結び、原告が賃貸人であることを明らかにしたが、被告宮崎隆治とは同二九年一〇月一日頃、別紙第一目録記載の土地八、一〇坪を昭和三四年九月三〇日まで賃料一ケ月金五五〇円、毎月二五日払として賃貸すること(甲第二号証)を約定した。ところがかねて本件土地で被告宮崎隆治等が営む市場を我が物顔に振舞う原告に対して不満を懐いていた同被告や訴外坂元長太郎等は昭和三三年四月頃にいたり本件土地のうち各居住者等の共用部分たる私道部分の賃料を分担するものとしても、なお同被告や坂元長太郎等の原告に支払う賃料が、原告の県に支払う賃料よりはるかに高いことに気付き、原告に異議をとなえるようになり、さらに本件土地は原告が県から借りたものではなく、前記組合が借りたものであると主張するにいたり、原告と同被告等は事毎に対立するようになつた。同被告は前示のように別紙第一目録記載の土地上の本件建物に居住し、現に右土地を占有使用している。

証人塚脇重盛、坂元長太郎の各証言、原告(二回)、被告宮崎隆治の各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照し措信しがたいし、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

なお昭和三三年四月より別紙第一目録記載の土地の賃料一ケ月金五五〇円を一ケ月金二四〇円に減額したことは原告の自から認めるところである。(県の指示により減額したとの点については何らの立証がない。)

そこで右認定の諸事実に徴し、原告が県より本件土地を昭和二九年一〇月一日より同三四年九月三〇日まで借受けた契約が更新され、従前と同様の条件をもつて県より本件土地を更に賃借している(賃貸借契約が現に継続中である)かどうかについて考えてみることとする。

現行の鹿児島県「財産及び営造物に関する条例(昭和三二年四月一日条例第一〇号)」の第一二条第二項には「行政財産及び営造物は、その用途又は目的を妨げない限度において使用収益させる場合を除くほか、これを貸付け、その他これに私権を設定し又はこれを出資の目的とすることができない。」と規定され、原則として行政財産はこれを貸付け、私権の設定をなし、その他処分することを禁じているに反し、第一三条第一項には「普通財産は次条から第一七条までの規定により貸付け、その他これに私権を設定することができる。」と規定し、原則として普通財産はこれを貸付け、その他これに私権を設定することを認めている。ところで右条例施行前に施行されていた「財産及び営造物並びに契約に関する条例(昭和二七年八月一日条例第四二号)」には右の行政財産、普通財産の明文上の区別はなされていなかつたようである。しかし事の性質上県等の公共団体の財産には当然右の区別はあるべきものと解する。そうしてかように行政財産について、その貸付け、私権の設定、その他の処分を禁じているのは県が公共の福祉のため財産を管理するのであつて、その目的に照し必要な限度において行政法上特殊な法的規律を認めているからであるというべきである。

ところで本件土地が行政財産に属するか普通財産に属するかを考えてみるに、前認定のとおり本件土地は鹿児島港内県有港湾用地であり、昭和二二年八月以前には鹿児島県土木部河港課、その後は同部港湾課がこれを主管し、現実にはその出先機関である鹿児島県港務所(後に鹿児島港管理事務所と改称)が管理していることに徴すれば鹿児島県が本件土地を「県において直接公共の用に供し、又は供するものと決定した公共用財産(前記昭和三二年四月一日条例第一〇号第三条第二項第二号参照)」として同条例施行規則(昭和三二年八月一六日規則第六〇号)第三条第一項の「条例第三条第二項に規定する行政財産は当該事務又は事業を所管する各部に所属させる。」との規定にもとづいて行政財産として取扱つていることが明らかであり、当裁判所もまた本件土地が港湾行政の用に供すべき港湾の一部であることに鑑み、これを行政財産であると解する。

しからば前認定のとおり県は本件土地を昭和二二年一月一〇日より同二九年九月三〇日までは使用許可(同二四年四月一日以降は原告に対してなされた)という形で、同二九年一〇月一日より同三四年九月三〇日までは県有土地賃貸借契約という形で原告に対し使用収益させているが、その法律上の形式如何にかかわらず前記条例第一二条第二項の「行政財産をその用途又は目的を妨げない限度において使用収益させる場合」に該当するものであること明らかである。

そこで「行政財産をその用途又は目的を妨げない限度において使用収益させる場合」の法律関係は如何に解すべきであるかを考えてみる。これを行政処分であるとする考え方、公法上の契約であるとする考え方、貸付、私権の設定に該当しない特殊の無名契約(準貸付)であるとする考え方もあり得るが、これを公法上の行為として私法の規定の適用が全面的に排除されると解すべき理由もないから、行政財産を私人に使用させるときは行政財産の用途又は目的を妨げるような規定を除き原則として民法その他の私法規定の適用があり、したがつて建物所有の目的で私人に使用させるときは借地法の適用もあるが、しかしその何れの規定が適用され、何れの規定が適用されないかは当該行政財産の用途又は目的に照し合理的に決せらるべきであると解するのが相当である。

ところで前認定のとおり昭和二四年四月一日より同二九年九月三〇日までの間の使用許可は昭和二二年一月三〇日前記組合に対してなされた容易に除去できる屋台店程度のバラツク建築をなして本件土地を使用することを許可する趣旨の契約を、期間を一年又は二年六ケ月の短期間に限つて更新してきたに過ぎないから、その使用収益の関係は一時使用の賃貸借契約と解せざるを得ない。しかし昭和二九年九月一五日鹿児島県港務所長と原告との間で締結された県有土地賃貸借契約は期間が五ケ年間となつており、さらに本件土地上に原告において平家建木造瓦葺九棟、二階建木造瓦葺一棟、同平木葺八棟の工作物を施設所有し得ることになつているので、他に特段の事情の認められない限り、これを目して一時使用の賃貸借とはなしがたく、建物所有を目的とする土地賃貸借として一応借地法の適用があると解すべきである。しかし借地法中借地権の存続期間を定める同法第一一条、第二条は行政財産の前記性質に鑑み、その適用がないこと多言を要しないので、右五ケ年の約定期間の定めも有効で昭和三四年九月三〇日をもつて右賃貸借の期間は満了したといわねばならない。ところで前認定のように原告は右期間満了の際、鹿児島港務所長に対し契約更新の請求をなしたのであるが、事実上更新拒絶の異議を述べ難いような賃貸人の権利の重大な制限規定であること明らかな借地法第四条第一項の規定もまた行政財産の前記特質を考えるとき、その適用はないものと解するのが相当である。しかしながら期間満了後借地権者が土地の使用を継続している場合において土地所有者たる県が遅滞なく異議を述べないときにまでも行政財産なるが故に県の恣意をゆるさなければならない程の理由もないから、同法第六条第一項前段の規定は適用があると解すべきであるが、前記認定の事実によれば右期間満了後、借地権者たる原告が自ら本件土地中少くとも別紙第一目録記載の土地の使用を継続していたことは認められず、かえつて被告宮崎隆治において、これを使用していることが明らかであるから、県が遅滞なく異議を述べたか否か、土地使用の默示の承認を与えたか否かを判断するまでもなく右法条を適用して契約が更新されたと看做すことはできない。けだし借地法の立法趣旨は借地上の建物を保護するために借地権者の地位を確保するにあり、同条の使用とは建物所有のための借地権者自らの使用でなくてはならないからである。

さらに同法第八条の適用も転貸借について県の承認があつたか否かを論ずるまでもなく、後記説示のとおり既に昭和三四年三月一日原告と被告宮崎隆治との賃貸借契約(転貸借)が解除されてしまつている以上、その適用の余地がない。しかしながら原告が県より本件土地を賃借したことは右説示のとおりであるから、民法によつて律せられる一般の賃貸借とみる余地があり得るので、原告が賃借物たる本件土地全般について民法第六一九条第一項にいう使用又は収益を継続していたか否かを考えてみなければならない。何故ならば民法第六一九条第一項の使用又は収益の継続は借地法第六条第一項の使用の継続と異り借地上の建物を保護することを目的とするものでないから、必ずしも建物所有の目的で借地権者自ら土地を使用する場合のみに限定さるべきでなく、広く賃借物の用途にしたがつて直接、間接に事実上使用又は収益を継続する場合であつてよいと解釈されるし、かつまたその使用収益の方法が賃貸借契約違反であるか否かを問うところでない(賃貸人は契約違反を理由に更新後の賃貸借を何時でも解除できるのだから)と解すべきであるからである。そこで前記認定の諸事実と成立に争いのない甲第一三号証、第一六号証、第一七号証および原告本人尋問(二回)の結果の一部ならびに弁論の全趣旨によれば、前記県有土地賃貸借契約の約旨は本件土地上に原告において平家建木造瓦葺九棟、二階建木造瓦葺一棟、同平木葺八棟の工作物を施設、所有して市場開設の用に供するため使用することになつているところ、原告は右賃貸借期間中もそうであつたが、右期間満了後も自らは本件土地上に建坪二〇坪外二階二〇坪の木造瓦葺二階建店舗一棟を所有し、その敷地部分のみを使用し、その余の本件土地中別紙第一目録記載の土地および訴外坂元長太郎所有の建物の敷地部分(この部分についても現に訴訟で争つてまでも収益し、これを管理しようとしている。)を除いた爾余の土地については、これを十数名の者にそれぞれ分割賃貸し、右十数名の者をして各自に建物を所有させ、賃料を徴し収益していることを認めることができる。右事実によれば原告は契約に違反してはいるものの、県より一体として賃借した本件土地を、全体として観察すれば右期間満了後も継続して使用収益していたというべきである。そうして前認定のように県は右賃貸借期間満了後の昭和三四年一〇月分より同三五年八月分までの港湾用地貸下料を何らの異議もとどめず徴収していることが明らかであるから、これは賃料を受領したものとして賃借物たる本件土地の使用を默示的に承認したものと解すべきで、民法第六一九条第一項により前賃貸借と同一の条件をもつて、更に賃貸借をなしたものと推定されるといわなければならない。もつとも前認定のとおり県は昭和三五年九月分以降の賃料は原告の支払の提供にもかかわらず、これが受領を拒絶していることも明らかであるが、賃貸借の目的物の使用を承認した以上、もはや異議を述べることはできないと解すべきであるし、この事実をもつて解約の申入と解することもできない。(県は何時にても解約の申入をなし得るのだから、契約の継続を望まなければ明確に解約の申入をなすべきである。)

してみると原告は従前と同様の条件をもつて期間の定めなく県より本件土地を更に賃借しており、県と原告との賃貸借契約は現に継続中であるというべきである。

原告主張の請求原因四項および五項の事実は当事者間に争いがない。

そこで原告と被告宮崎隆治間の賃貸借契約は昭和三四年三月一日解除されたから、同被告は原告に対し別紙第一目録記載の土地を明渡してこれを返還し、昭和三三年三月分の賃料金五五〇円および同年四月一日から同三四年三月一日まで一ケ月金二四〇円の割合による延滞賃料、同月二日から右明渡済まで同じ割合による賃料相当の損害金を支払う義務があるというべきであり、原告は本件土地の前記賃借権にもとづき賃貸人であり本件土地の所有者である県の被告宮崎陞に対する本件土地所有権にもとずく妨害排除請求権を代位行使し得べきところ、同被告は別紙第一目録記載の土地を占有し得べき権限につき何らの主張立証をなさないから、本件建物を収去して右土地を明渡す義務があるといわねばならない。

よつて原告の本訴請求は全部正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、仮執行の宣言はこれを付するのが相当でないと認めて却下することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例